アスペルガー

発達障害にも強烈な威力を発揮した「絵カード」(息子-5)

アスペルガー症候群の太郎は、近所の私立の幼稚園に入園しました。

ある日の降園後、担任の先生から電話がありました。

アスペルガー症候群の太郎は、見よう見まねは苦手

先生からの電話は、次のような内容でした。

「太郎君は、とても元気に遊んでいます。
でも、一つだけ気になることがあります。
お片付けの時間になっても、おもちゃを放したがらず、家に持って帰ると言って聞かないんです。
幼稚園のおもちゃだから、お家には持って帰れないよ、また明日遊ぼう、と説明するんですが、どうしても諦めきれないようで・・・。
お家での様子はいかがですか?」

家でも、こだわりだしたら融通が利かないことはよくあったので、「よほど気に入ったんですかね~」と言って、電話を切りました。

「気に入ったおもちゃがあったの?」と、太郎に尋ねてみましたが、返事は「そうでもない」です。

「先生が、太郎がおもちゃをずーっと持ってたって、お母さんに教えてくれたよ」と言うと、太郎は、どのおもちゃのことを言っているのか分かったようでした。

電話機のおもちゃだったようです。

そして、ぼそっとこう言いました。

「ぼく、直せないよ。だから、持って帰って、おかあに直してもらおうと思って・・・」


「なおす」は「修理する」

太郎がまだ赤ちゃんだった頃に、私達一家は関西に引っ越して来ました。

私たち夫婦は二人とも関東出身で、家庭では主に関東弁でしゃべっています。

関東で「なおす」というと「修理する」という意味ですが、関西では「片付ける」ことを「なおす」と表現することがよくあります。

太郎の通う幼稚園は歴史のある幼稚園で、古くて少々くたびれたおもちゃでも、現役で子どもたちを楽しませていました。

太郎は、先生の「はいっ、おなおしの時間ですよー!」という声掛けを、「修理しましょう!」と捉えたのです。

太郎は、幼稚園も先生も大好きになっていたので、全力で先生の指示を遂行しようとしたのです。

本当に笑い話ですが、太郎の気持ちを考えると、とても笑えません。

太郎は、古ぼけて半分壊れかけたおもちゃの電話を握りしめて、目の前が真っ暗になったのです。

周囲を見れば、友だちはみんな、片付けをしています。

でも太郎は、先生の指示を全力で守ろうとするあまり、「なおす」=「片付け」という推測ができず、「みんなは、さっさと修理を終えて片付けている。自分はどうしよう。持って帰って、おかあに修理してもらうしかない!」と考えたのです。

このことに気が付けて、本当に良かったと思いました。

太郎には、「なおす」というのは「片付ける」という意味で、修理はしなくてよいことを教え、おもちゃをしまう場所に戻せばよいことを説明しました。

太郎は、ほっとした様子でした。

担任の先生にも、事の次第を説明して、納得してもらうことができました。

アスペルガー症候群の太郎には、指示が伝わりにくい

年少・年中と、太郎は、保育のプログラムには、ほとんど参加していませんでした。

園庭で一人で遊んだり、安心できる補助の先生にくっ付いて、職員室にいることが多かったようです。

非常におおらかに子どもたちの成長を待ってもらえる方針の幼稚園だったので、太郎のことを観察しながら、ゆっくりと集団に馴染むように導いてもらっている時期でした。

この時期の太郎は、家庭では、最も荒れていた時期と言えます。

次男が生まれてまだ1年そこそこだったので、太郎の難しさは「赤ちゃんがえり」だろうというのが、大方の意見でした。

食事、歯磨き、身支度、外出など、生活上のどんな場面でも一々ひっかかり、かんしゃくを起こします。

朝、幼稚園の制服に着替える途中で、おもちゃの一つが目に入り、それで遊び始めてしまう。

夢中になってしまい、ブラウスに袖を通すだけで一時間・・・。

見かねて「着替えてから遊ぼうか」という声かけで、かんしゃくの大嵐が起きてしまいます。

私は、赤ちゃんがえりだけでは済ませられないような、「伝わりにくさ」を太郎に感じていました。

アスペルガー症候群の太郎にしてみれば、指示が良く解っていなかったのです。

特に幼稚園では、解らないから取り組まないし、その場に居づらくなって、他に楽しいことを探しに行ってしまう。

でも「できなかった」という思いもあって、漠然とした不安ばかりが募って行く、という悪循環の中にいたのだと思います。

指示を伝える画期的な変化になった「絵カード」

年中になった3学期、私とアスペルガー症候群の太郎にとって画期的な変化がやって来ます。

園長先生のはからいで、大学の幼児教育の専門家の先生に相談させていただくことになりました。

私が太郎の何に困っているのかを、じっくりと聞いてもらった上で、次のようなアドバイスをしていただきました。

「太郎君自身も困っているだろうから、ちょっと試してみませんか?」と、軽い感じで言っていただきました。

「発達障害」や「アスペルガー症候群」などの言葉が一つも出てこなかったのは、私への配慮だったのだと、後になって気付きました。

それは、「絵カードを使って、スケジュールを示し、行動を促す。」という方法です。

幼稚園と家庭で、同じように取り組むことになりました。

家庭では、カードをいちいち取りだすのが面倒に思えたので、大きな紙に順を追って描き、矢印でつないだものを壁に張ることにしました。

朝バージョンと、夕方バージョンを作りました。

例えば、朝バージョンでは、「起きる→トイレに行っておしっこをする→朝ごはんを食べる→歯磨き→顔洗い→着替え」といった感じで、簡単な絵を描いて、列にしておくのです。

「今ここまでできたね。次は?」と、絵を指し示すと、太郎は驚くほどすんなりと、物事をスルスルと進めました。

2~3日すると、私の声掛けも減り、自分で絵を見ながら進めて行くようになりました。

1週間たった頃には、実際に絵を見なくても、太郎は自分でできるようになっていました。

絵カードの流れを「覚えちゃった」のだそうです。



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